圭吾さんとケンカした。
前の日、圭吾さんはどこかに行って、
家のみんなが『司さんと和解するらしい』とヒソヒソと話していた。
司さんってうちの校長の事だよね。
前に校長に会った時、圭吾さんはとてもつらそうだった。
だいじょうぶかなって心配してたのに、
みんなが心配してたのに、
夜遅く帰って来た圭吾さんは、誰とも口もきかずに部屋にこもってしまった。
なのに、
次の朝、圭吾さんはいつもとかわらず何事もなかったようにそこにいて
わたしに優しく『おはよう』と言う。
安心したのに悔しくて
なぜか悔しくて
圭吾さんに突っ掛かってしまった。
今朝は何も食べたくない
具合なんて悪くない
子供みたいにかまわないで!
圭吾さんなんて大嫌い!
ヒステリックに叫んで家を出て、十歩ほど歩いて立ち止まった。
このまま学校になんて行けない
わたしバカみたいだ
トボトボと家に戻って、まっすぐ台所に行った。
「せっかくご飯を作ってくれたのにごめんなさい」
うつむいてお手伝いさんに謝った。
圭吾さんにも謝らなきゃ
「志鶴ちゃん?」
優しく呼ばれて顔をあげると、伯母さまがハッと息を飲んで『圭吾を呼んで』と誰かに小声で言った。
圭吾さんが台所に飛び込んできて凍りついたように足を止めた。