やっぱり、圭吾さんに完璧にはめられた気がする。
貴子伯母さまが、ニコニコして『志鶴ちゃんの気持ちが三年後も変わらければ結婚すると圭吾から聞いたわ』と言う。
ん?
微妙にニュアンス違わない?
変わるも何もわたし、まだどんな気持ちにもなっていないんですけど
「一時は圭吾が立ち直れないんじゃないかと心配したものだけど、志鶴ちゃんのおかげで圭吾もすっかり明るくなったわ。本当にありがとう」
目を潤ませた伯母さまに抱きしめられたんじゃ、違いますとは言えない。
唯一の救いは、彩名さんには本当の事が言えた事。
「それは志鶴ちゃん、圭吾の作戦にまんまと乗せられたのよ」
「笑い事じゃないですよ、彩名さん」
彩名さんのアトリエでわたしはむくれて言った。
「だいたいここに来て二ヶ月くらいしかたってないんですよ。どうやったら結婚話まで飛躍するんですか?」
「圭吾にしては我慢した方だと思うわ。あの子、たぶん志鶴ちゃんが来てすぐに気持ちを決めたのだと思うの」
マジで?
「志鶴ちゃんは今の圭吾しか知らないでしょうけれど、あの子、あなたが来てから本当に変わったのよ。よい方にね」
「伯母さまは圭吾さんが立ち直れないんじゃないか心配していたって言ってましたけど」
「大袈裟に言った訳ではないのよ」
彩名さんは顔を曇らせて言った。
「高校生の時、圭吾には真剣にお付き合いしていた方がいたの。一つ年上で――わたしの隣のクラスの人だったわ」
「ひょっとして竜田川さんっていいます?」
「あら、ご存知?」
「妹さんの方ですけど」
「竜田川優月(ゆづき)さん。綺麗な方でね、圭吾は夢中だったのだけれど、父が亡くなって圭吾が忙しくなると自然に疎遠になってしまったのね。それで優月さんは別の方とお付き合いをするようになったの」
「圭吾さんがフラれたって事ですか?」
「結果的にね。優月さんと別れたショックと仕事の重圧もあってあの子はすっかり気難しくなったわ。家族ともほとんど顔を合わせない。夕食も部屋で一人きり。
驚いているわね? 志鶴ちゃんが来た日から夕食の席に顔を出すようになったのよ。驚いたのはこちらもよ」