根に持つタイプではないけれど、わたしだって怒る事はある。


ホントにホントに何なんだ、あの女はっ!


あんまり頭に来てすごい顔してたのか、出迎えてくれた和子さんの『お帰りなさいませ』という言葉が途中で止まった。

「志鶴さん、どうかなさいましたか?」

「和子さんっ!」

「は…はい……」

「『とうりゅう』ってなんですか?」

「は? 闘龍でございますか? 闘う龍と書いて闘龍と呼びます。この地域の伝統的な競い事でございますよ」

「それだわ! それよ!」

勢い込んで詰め寄ると、
和子さんが一歩二歩と後ずさりする。

「それどうやってやるの? わたしもやりたいっ!」


「まあ志鶴ちゃん、大きな声でどうしたの?」

居間のドアから伯母さまが顔を出した。

「お……お、伯母さま、伯母さま! 闘龍ってどうやるの?」

「落ち着いて、志鶴ちゃん。こちらへいらっしゃい。ばあや、ココアでも出してあげて」


あーもう!

居間のソファに座るのももどかしい。


「伯母さま、わたし闘龍をやりたいの」

「まあ…どこで闘龍の話を聞いたのかしら?」

「学校です! 食堂でっ! 『龍も持ってないくせに大きな顔をするな』って」

「――って 誰に言われたんだい?」


――って 圭吾さん?


窓側のコーヒーテーブルで圭吾さんがカップを持ってこっちを見てる。


「圭吾さん、さっきからそこにいました?」

「もちろん」


本当に?


どうも圭吾さんって神出鬼没

絶対変だよ

でも 家の人は誰も疑問に思ってないみたいなんだよね


「志鶴?」

「あ、はい」

「誰に何を言われたって?」