「奈緒ごめ……ッ」


「やめろ」



恐る恐る伸ばした恭二の手を掴んだのは、まっちゃん。



「相良、教室戻れ」


「は?」



二人が黒いオーラを纏う中、私はただ震えているしかなかった。


泉さん。


泉さん。


泉さん!



「相良」


「……チッ」



低い声で名を呼ばれた恭二は、決まり悪そうに舌打ちし教室を出て行った。



「神山、大丈夫か?」


「まっちゃん、ごめん」



一息、深呼吸した私は笑顔を作った。


やっぱり、トラウマになってたんだ。


千夏が申し訳なさそうな顔をしていた。


うざい。


ここで、うざいと思う私は腐ってると思う。


でも、うざい。そんな顔しないで。そんな目で私を見ないで。



「千夏ちゃんの所為じゃないよ」



そう、千夏ちゃんの所為じゃない。


全ては醜い自分の所為。


だから私をこれ以上、惨めな気持ちにさせないで。


私は知らなかった。この時、幸大くんがジッと私を観察していたことを。