雪のちらつく寒い日だった。


受験票を手に入れた僕は決意を固め
塾へいつもより慎重な足取りで向かった。



家の廊下を歩き、階段を下りる

そこに藍ちゃんがいた。




僕はいつものように
スッと通り過ぎようとした。


そのとき


「たっちゃん。T大受けるの?」


と藍ちゃんの振り絞ったけれど少し震えた小さな声が聞こえた。


僕は足を止め
身体はそのままで顔だけ藍ちゃんの方に向けた。


「うん。」

藍ちゃんは黙って僕を見つめ

「たっちゃんはやっぱりすごいな~。頑張ってね」

と、満面の笑みで言った。



その笑顔が偽物だということはすぐにわかった。

心臓の奥が苦しくなった。

「ごめん。僕はもう藍ちゃんを苦しめないから。」


僕はそれだけ言うと走り去った。

藍ちゃんが何か言おうとしていたけれど
その言葉を聴く勇気はなかったんだ。