喫茶店とか、ファミレスとか
そういう所に行くと、
必ず1つ、水が多く並べられるんですよ。
憑りつかれでもしてるんだろうか。
そう思ってたんですけど、
ある日友達に言われました。
『ずっと言おうと思ってたんだけど、
その、後ろに貼りついてる人誰?』
って。
は?っと思って振り向くと、
鼻の先が付きそうな程近くに、
知らない人の顔がありました。
そいつはずっと、後ろに居たんです。
だからいつも1人多く数えられていたと。
でもね、今でもそいつが一体誰なのか。
そして何のためについてるのか。
さっぱりわからないんですよ。
だから今も、1人多いままです。
本人曰く、『背後霊』だそうですが。
見えない人も多いんですが、
何故かお店の店員さんには
確実に見えてるんですよね。
本当に、意味が解らない。
フッ
85本目の蝋燭が消されました。
小学校の夏休みの宿題で、
絵を毎年提出しなきゃいけなかったんだ。
でもある年、完璧に忘れてた。
思い出したのは、夏休み最後の日。
普通に描いてたんじゃ間に合わない!
だから白いクレヨンで
適当にぐちゃっと描いて、
その上に青い絵の具をひたすら塗ったんだ。
タイトルは『空』で提出した。
先生も呆れてたけど、
ちゃんと受け取ってくれたんだ。
そこまではよかった。
だけど年々、クレヨンを塗った場所。
白く抜かれている場所の形が
変わってきてるんだ。
ただ絵の具が色褪せてきてるんならいいんだけど、
その形が段々、人に見えてきてるんだ。
絵の具の色は青いから、
もう空には見えなくて、
海に浮かんだ水死体?
そんな感じに見えてきてる。
しかも人に見える数が、
同じく年々増えてきてるんだ。
大きい人影は2つ。
小さい人影は3つ。
うちの家族の人数と同じ数に。
小さい3つは、少しずつ、
成長するように大きくなるし。
気味が悪いんだけど、
母さんが捨てさせてくれないんだ。
前に黙って破こうとしたら、
紙の端で手を切っちゃって、
何故かクレヨンの上に血が乗っかるし。
それで余計、気色悪くなっちゃった。
本当、どうしたらいいんだか。
フーッ
86本目の蝋燭が消えました。
お盆の時期、
海に入っちゃいけないって言うでしょう?
でもそんなのは迷信だって、
とにかく遊びたかった小さい頃の話です。
波も穏やかで、高くないし、
水温も低くなく、バッチリ。
クラゲもいなかったから、
父の実家の近くの海で、
親には内緒で遊んでいたんです。
そしたらゆらゆらと、
遠くの方で漂う物を見つけました。
ゴミでも浮いてるんだろうと、
特に気にもせずに遊んでいたんです。
1時間程経った頃でしょうか。
ふ、と何か、
突然、見なきゃいけない気がして、
視線を遠くの方へ向けました。
さっきの何かが、
近づいてきているように感じて、
そのまま見つめてみたんです。
すると、少しずつ、
だけど確かに。
引いて行く波には逆らって、
こちらに向かってくる波には乗って。
その何かが近づいてきていたんです。
その距離が10mあるかないかになった頃
よーく目を凝らしてみれば、
漂う物の先端はいくつかにわかれていました。
……指、だったんです。
つけ根の辺りまでしか
水面から出ていなくて、
その下は見えませんでしたが。
手、なんだと解りました。
溺れているのか。
それにしては暴れていないし。
それじゃあまさか……?
とにかく助けを呼ぼうか。
でもその前に声をかけてみよう。
そう思った次の瞬間、
私は気が付きました。
漂う手は、
こちらへ手招きしていたんです。
ゆっくりと。
直感で、私は悟りました。
あれは、人間では無いと。
向こう側へ連れて行こうと、
おいで、おいでと呼んでいるんだと。
怖くなって帰宅した私は、
手が浮いていたとだけ、親に言いました。
そしたら何処かへ連絡したのか、
海では捜索が始まったようでした。
だけど結局、
何も見つからなかったそうです。
あのままだったなら、
岸に打ちあげられていてもおかしくないのに。
やっぱりあれは、
人間じゃ無かったんでしょうね。
それからは、
お盆に海へは入っていません。
ふーっ
87本目の蝋燭が消えました。
ストーカーにあってるから、
家の中でビデオを撮っておく話があるでしょう?
あれにちょっと憧れてて。
別にストーカー被害はないんですけどね。
それで、カメラを設置したんですよ。
1日回した後に、友達と見てみました。
まあ、誰も居ない部屋のビデオなんて
見ても面白い訳は無いんですが。
何かあったら面白いよね?って、
駄弁りながら見てたんですよ。
さすがに倍速で。
それで3時間分まで見終わった時、
突然1人が言ったんですよ。
「今の所、巻き戻せ」って。
何?なんか面白いの映ってた?
色めき立って全員、画面に注目しました。
止めてから巻き戻しはせずに、
再生したまま、
つまりは逆再生の状態にしたんです。
すると、ドアが開きました。
誰かが部屋に居て、
出ていった瞬間です。
その日は家族全員留守で、
誰かが居るはずはないんです。
それは友達も知っていたから、
みんなワクワクして注視していましたよ。
さあ、一体誰が入ってくるんだ?
期待の中、ドアを開け、
映ったその背中は……。
俺、だったんです。
学校に居たはずだし、
ここにいる全員と一緒に居たし。
仕掛けてたんだろ?って疑われて、
そんな訳は無いと、
今度は10倍速で再生しました。
映像は途切れることなく、
最後は帰宅して、
カメラを止めた所で終わっていました。
そもそも日付だって、
ちゃんと入ってるし。
仕掛けるんだったら、
もっと凝った作りにしてる。
そう訴えると、
まあ、確かにと全員、納得しました。
じゃあ一体何なんだ?と、
首を傾げていると、部屋の外から
何者かの足音が聞こえたんです。
まだ、家族は誰も帰ってきてないのに。
ヒタヒタと近づいて来る足音。
なんとなく、俺は鍵を閉めました。
直後に無理矢理、ドアノブをひねる音。
続いて、ドアを蹴りつける音。
俺も友達も、全員黙り込みました。