「鬱陶しい」

「先輩……」

「いい加減にして」

「それは無理なお願いですよ
だって俺、先輩のこと好きですから」

理由になってないよ。
国語3って話盛ってんじゃないの?
実は2くらいじゃないの?


「仕方ない、今回だけ」

次はないと思えよ、と一応釘を刺しておく。

「いやったあぁぁ!」

「!?」

な、何事!?
いきなりハイテンション!?

「柴、やっぱ帰んないで」

「お散歩と言う名のデートですね!」

「ちっがあぁぁう!」

そのお花畑な発想はいったいどこで生産されてるんだ!?

「やっぱ病院!」

「産、婦人科………ですか?
俺まだ抱きついたことしかないのに……」

わざとらしく言うあたり確 信 犯。

「お前の頭を見てもらうんだよバカタレ!」


聞き取りテストはコイツ絶対0点だな。

あと、妄想癖、これは酷い。

やっぱ駄犬だわ。



「保健所連れてく」

「それは酷いですよ!
知ってますか!?日本では御犬様と……」

「いつの時代の話をしてるんだよ」

そしていつの時代の犬だ、お前は。
今の日本にそんなものないんだよ。


「元の時代に帰れ、本気で」

“本気”と書いて“まじ”と読む。

「先輩がいない時代に俺は生きれません!」

「重い」

アンタ、それは流石に重いって。


「先輩も、そうじゃないですか?」

「まずお前はその妄想癖をどうにかしてこい」

柴のキャラも若干壊れてきてる。
もう駄目だ。
美那都が末期なんじゃない、この作者が末期なんだ。

私はやっとそのことに気づいた。
少しばかり遅いけど。


「妄想なんかじゃないです!
これは俺の、未来予想図なんです!」

あー、そういやそんな曲あったなぁ……。
なんて呑気に考えた。

「その未来、信じて疑ってない?」

「勿論じゃないですか!」

「それを妄想って言うんだよ!」

国語1だな、やっぱり。



「ってか柴はどうして私なの?」

柴可愛いから言い寄ってくる子なんて沢山いそうなのにな。
選り取り見取りじゃないか。


「何ででしょうね?」

そんな風に首を傾げるな。
女辞めたくなる。

「先輩って」

「ん?」

「何だかんだ言って優しいですよね!」

な、何を言ってるんだこの輩は!
今までの対応とかで優しいと感じる点はなかったはずだけど!?

「先輩は気づいてないかもですけどね」

気づいてないとも!

「はい、着いた」

意外と、早かったな。

「ここなんですか?」

「来るなよ?朝とか」

来そうだ。すごく来そうだ。

「行きますけどね」

人の話を聞けよ!!
世界はお前が中心で回ってるんじゃないんだよ!!


「それじゃあ先輩、また明日!」

「出来れば会いたくない」

「出来ないですね」

しろよ、するんだよ。



気がつけば翌朝。

私はいつも通り、けたたましい音を立てる目覚まし時計を止めて
無理矢理布団から出る。

そして目を覚まさせるためにも顔を洗って、そのままの足でリビングに行き、朝食を詰め込む。

それから歯を磨き、自室に戻り、着替えを済ませカバンを持ち、学校へ。


と、ここまではいつも通りだった。

しかしドアを開ければご想像通り、柴犬が待ちかまえていた。


「ストーカーって知ってる?」

「あ、先輩、おはようございます!
ストーカー、ですか?
しつこくつきまとって迷惑や危害を与える者
ですよね」

そんな笑顔で言われても困る。
っつか……

「細かいわ!」

「愛読書は広辞苑なので」

「嘘付け」

広辞苑は意味を調べるときにひくのであって意味もないのに辞書やらを読む輩がいるものか、バカタレ。


「嘘ですね」

ほんで認めたよコイツ。
なんなんだよ。



「まぁそんな意味なので俺、違いますね」

尻尾を振るな尻尾を。

「迷惑、かかってんだよ」

「先輩はツンデレですからねぇ」

「殺されたい?」

いつか脳天に槍かなんかぶっさすぞ、この野郎。

「いやぁ先輩物騒ですよー!」

「そういう発言させてんのはお前だよ」

っつか何でコイツついてきてんの?
まぁ、いい。途中までの辛抱だ。
我慢しよう。


「柴」

「はい?」

「一度は受け入れた私にも非がある。
でもさ、やっぱ無理だ」


私には無理だ。
変われるかもしれない。
実は密かにそんなことを思ってた。

バカな奴。

バカはさ、柴じゃない、私なんだよ。


「先輩……俺は、先輩がどんなに突き放そうと、待ち続けます」

柴…………。

「雨に打たれ、風に吹かれ、雪に埋もれても待ち続けますから!!」

「誰が忠犬柴公の話してんだよ」

そういう話してんじゃないから。



「先輩から振ったんじゃないですかぁ」

「耳鼻科行ったら?」

「んー……」

「何その微妙な顔」

そんな反応されても返し方わからんよ。
そんなリアクション初めてだもん。


「いやぁ璃子先輩の反応が少し暖かくなってきたんで少し」

「何で二回言う」

大事なことだからなのか!?


「氷、融けてきたかなぁって思ったんですけど……」

そして私のツッコミはスルーか。
スルーが一番悲しいって知ってる?

「あ、そう。
あ……華音ー!美那都ー!」

「先輩反応薄すぎ……クスン」

「ふーん。
おはよー」

「朝からラブラブだね」

誰と誰がだよ。

「璃子にゃん、柴にゃんおはよー」

にゃん……もう完全にキャラ立ったよコイツ。
おめでとうさん。

「璃子、目が死んでる」


そりゃ目も死ぬって。

「璃子先輩……?」

気がつけば、柴の顔が近くにあった。



「柴」

「はい?」

「近い」

「あ、はい!」

バッと勢いよく離れた。

こういうところは忠犬なんだ……。

「主従関係か」

「璃子にゃんが主人?ギャハハハハ」

こいつはもう放っておこう。
相手にする時間も勿体無いし。


「璃子にゃんの私の扱いが酷い」

「それは俺も同じですよ」

「柴にゃん!!」


もういい、無きものとして考えよう。
そうだ、スルースキルを磨き上げればいいんだよ。

この中で一番高そうなのは華音か……。

「何よ」

「あ、いや別に」


おまけに勘がいいから見てるとすぐバレるんだよなぁ。


「んじゃ」

「え!?何でですか璃子先輩!!」

「だって二年と一年の下駄箱違うじゃん」

「え、は、はい」

そう、もういつの間にか学校に着いていたのだ。
早くね?のツッコミは無しの方向でお願いしますね(こら)



「履き替えてカバン置いたら速攻で会いに行きます!」

「是非来なくていいんだけど」

って何だその目は
シュンとかいう効果音がつきそうなんだけど。
しかも耳!なんかまた見えたんだけど!?


「だーもうわかった!勝手にして!!」

「はい!!」

甘えん坊の犬かよ。
本気でペットを飼ってしまった気分だよ。
まったくもう。


「何々、青田もうすっかり懐かれてんじゃん」

この声は…………


「なんとか山!!」

「樋山ですよ……っつか青田、何故距離を置く!?」

「来るな!!」

あ、白くなった。
まぁいいや。

「樋山きゅん樋山きゅん」

「ん?」

「あんまり璃子にゃんにちょっかい出さないであげて」

「へ?」

美那都……アンタ
意外だ、そんな優しい奴だったんだ。

今のでかなり印象変わったよ。



「璃子にゃん男子嫌いだから」

「まじで?あ、青田なんかごめんな」

そう言って彼は走り去っていった。


この学校に、私を知る人はいない。
美那都や華音でさえ、別の中学出身。
まぁ、色々話したから知ってるんだけど。


「樋山は、悪くない」

もう彼のいない廊下にポツリと呟いた。

「……璃子」

「わかってる。
別に男子全部が全部悪いんじゃないって」

それでもさ、やっぱり怖いんだよね。
だからわざと、虚勢を張ってしまう。

「行こう。そんな暗くならないでよ」

私のせいで二人にそんな悲しい顔させられない。
柴は、丁度いいのかもしれない。
二人を安心させるために。


「でも璃子……」
「璃子にゃんの言うとおり!
私らが暗いとか気持ち悪いじゃん」

美那都……アンタの株、右肩上がりだよ。