「璃子」

「何よ……」

「忘れたとは言わせないからな」


忘れた……なんて、言えない。


「聡真……何故、連れ戻しにきたの」

「タイムリミットだ、璃子」

「タイムリミットなんて……言われた覚えない」

「ああ、言ってないからな」

変わらない。相変わらずなんだ。

「俺が、勝手に決めたからな」

「言われないとわからない」

「お前の都合なんて知らん」

相変わらず、ひどい人。


「私、もう聡真のことなんて好きじゃないよ」

私のその言葉に、聡真は鼻で笑った。

「何か文句でも?」

「璃子はツンデレだからな」

薄ら笑いを浮かべ、私の髪の毛を弄(もてあそ)ぶ。


「アンタ……何だってんだよ!」

華音がハッとして、声を荒げた。

「お前こそ、誰だ」

「璃子の、友達」

そしてまた、コイツは笑うんだ。





「璃子の、友達ぃ?」

聡真は馬鹿にしたように笑い出した。


本当に変わらない人。


「聡真、笑わないで」

「こんな滑稽なこと、笑わないなんて無理だ」

「アンタ最低だ。璃子から離れて」

敵意向きだしの華音に、聡真は余裕の笑み。


「お前、随分と俺を悪く言ってるみてぇだな」

「事実を述べただけ」

「ふぅん」


私は確かに、聡真のその他大勢の女だった。
でも、私は聡真の特別だった。
それに気がつくのは、私が聡真の元を離れてから。


聡真はその他大勢の女のために、ここまで来たりしない。

「聡真が、何故そこまで私に執着するのかわからない」

「言っただろう。俺は美しいものが好きなんだ」

「話しにならない」

その他大勢のどうでもいい女を、自分以外の男と関われなくしたりしない。


つまり、私は…………





「ねぇ、聡真……なんで今なの」

なんで、このタイミングなの。
もう少し待ってくれてもよかったのに

せっかく、せっかく稟汰という存在が出来たのに……。

「璃子、約束は約束だ」

聡真は私の腕を掴み、引っ張った。

「やだっ、待ってよ!」

私は聡真の手を振り払うように振り回した。

「離して!」

「璃子、約束を守らない女は嫌いだ」


嫌い。


その単語に、恐ろしいほど反応した。

こわかった。聡真に嫌われて捨てられるのが、こわかった。


まだ私は聡真から完全には解放されてないと、思い知らされる。


「お前には、俺だけだ」

「違う……違うよ聡真」


私にはもう、聡真だけじゃない。

私にはね、稟汰がいる。


でも私は、聡真がくる前に聡真以外の男と関われるようにはならなかった。


これはそのペナルティーだ。





「他にも、いると?だがお前は俺以外とは関われないんだろ」

「そうだよ、まだ克服できたわけじゃない。でも、あいつなら……」

「璃子、約束は約束だって言っただろう。過程じゃない、結果だ」


目の前が、真っ暗に染まる。


過程より、結果。


「あんた……あんたがそんなだから璃子が壊れるんだ!璃子から手を引きな!」

「何故、璃子から手を引かなきゃいけない?」

「信じらんないっ……」


どんなに頑張ったって、どんなに良かったって、最後がダメなら、ダメなんだ。

それが聡真の人生観。


「璃子、来い」


のばされた手を、私はすんなりと掴むことが出来ない。



「璃子先輩!!」

騒がしい足音ともに駆け込んできたのは、私の忠犬……。





「稟汰……」

「稟汰!」

稟汰の後を追ってきたのか、紗耶ちゃんも教室に駆け込んできた。

「紗耶ちゃん!?」

紗耶ちゃんは、そこにいる人物を見て固まった。


「聡真さん……どうしてここに」

しかし、聡真は全く驚いておらず、むしろ紗耶ちゃんと会うのは当たり前のような顔をしていた。

「璃子を迎えにきたただけだ」

聡真は私を見据えたまま、紗耶ちゃんの質問に答える。

「聡真さん、私に会いに来てくれないんですか?」

「何故お前に会いに行くんだ。俺は、璃子にしか興味はない」


私は聡真の横を抜け、稟汰の元へ歩いた。

聡真はそれをなにも言わず見ているだけだった。

奇妙だとは思ったが、邪魔されないだけいいので私は気にしないことにした。



「璃子先輩……」

稟汰の私を呼ぶ声は、不安に満ちていて、少し掠れていた。




「稟汰」

にっこりと稟汰に笑いかける。

大丈夫だから。心配ないから。


「ごめんね……」


ごめんね、変に期待させてしまって。
私は聡真には逆らえないの。だから……。


「璃子先輩……赦しませんから」

「赦さなくて、いいよ」


「璃子、行くぞ」

「わかってる」

私は稟汰の頭をくしゃりと撫でて聡真のあとを追いかけた。


ここからまた、地獄が始まるかなんて、わからない。


「聡真!歩くの速すぎ、追いつけない」

聡真はチラリと私を見てわざとらしくため息を吐いた後、歩くスピードを緩めた。


びっくりして、立ち止まった。


「璃子、早く行くぞ」

「え、あ、うん」


まさか、あの聡真が、私のために……。

以前の聡真ならありえなかった話。



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