「やっぱり先輩は女王様なんですね」

ヒョコッといきなり現れたのは噂の人物。
柴……あー、なんだっけ?

柴犬。そう柴!!


柴だった。

「のわぁぁぁ!!アンタどっからわいてきやがったぁぁ!」

「おー噂の柴犬君」

「噂?柴犬?」

かなりキョトンとしている。

犬みてー!まじ犬みてー!!

って、いつもならギャハハハ笑う筈の奴が笑ってない!
何故!? Why!?

「付き合ってやんなよ」

「美那都ォォォ!?」

何故!?まじでお前何があったし!
あ、まさか!


「柴に惚れたんなら遠慮な「誰が惚れるか!」

すみません……。

忘れてたよ、美那都が理想高いの……。
柴じゃダメだもんなぁ。

「っつかアンタ何しにここに来たの」

「そんなの先輩に会いに、に決まってるじゃないですかぁ」

あ、幻覚。
耳と尻尾が見えた……。



「っていうか璃子先輩、柴って呼ばないでくださいよ」

「いいじゃん、いいじゃん」

愛称だよ愛称。

「良くないです!」

本当コイツその辺の女子より可愛いんだけど?
キー!羨ましい!!


「さぁ、禀汰って!」

「だってアンタ、柴何とかって名前でしょ?」

何故か柴は雷にでも打たれたかのような顔をしている。

え、何このアホ面。

「柴何とかじゃないです!名前すら覚えてないんですか!?」

ギクッ!

「お、覚えてるにききき、決まってんじゃーん!」

やべー冷や汗半端ない!
純情じゃねぇよこの量!

干からびそう。

「あ、あれだ、えっと……柴、柴」

柴までしか思い出せない!

「先ぱ……」

「ちょっと待って今頑張って思い出してっから!」

柴……柴…………あれ?

「思い出すって、やっぱり忘れてんじゃないですかぁ!」

うおっ、今心に何か刺さった。



「羽柴 禀汰」

そう言ったのは私でもなく、柴でもない。


「だろ?」

誰。

「ひ、樋山(ヒヤマ)先輩!」

ひやま?
何か聞いたことある。


「何で青田が不思議そうな顔してんだよ」

好青年って感じだね。
うんうん。
陸上部って顔してる。

「誰」

「誰、ギャハハ!」

あ、美那都。
ここで笑うか!
ツボがわからん!!


「あんたねぇせめてクラスメートの名前くらいは覚えておきなさいよ」

「クラスメート?」

え、じゃあこのひ、ひや……ひ……君は、クラスメートな訳?


「えっと……」

「あは、知ってるよ。
青田、男の名前覚えてねーの」

「何で……」

そんな事知ってんだ?
ま、まさか、ス……ス……

「ストーカー!?」

「違うわ!!」

「あ、違うんだ」

「ってか何で知ってんの?」

「だってお前男にだけ異常に冷たいし、名前呼んでんの見たことねー」

あ、ああ……そんなことか。



「でもソレってかなり有名じゃん」

「華音、知ってるの?噂のこと」

「あたぼうよ!」

あたぼうよって誰キャラだよ。

「“女王様は愚民の名前何ぞ興味ない”
って噂だよ」

「!?」

女王様!?
愚民!?

いったい私、どんな人って事になってんだか……。

知りたいけど知りたくない。


「私、女王様何かじゃない……」

「璃子先輩!」

「は?」


あ、何かまた幻覚。
尻尾振ってる様に見える。

やばいなぁ眼科、いや……幻覚だから頭の方か……?


「携帯の番号教えてください!」

「断る」

「え!?何でですか!」

「アンタのアドレスやら何やらなんかに興味ない」


「来ました来ました“女王様は「華音!」

来ましたって何来ましたって。
事実を述べただけなんだけど。

「先輩が興味無くても俺が興味あるんですよ!」

「両者の同意があってこその行為」

「先輩そんな難しい事言わないで下さいよぉ!」



「いいじゃんメアドくらい教えてやんなよ」

「そうだそうだ!柴君が可哀想!」


「お前ら揃いも揃って何な訳!?」

だってやっぱり…………興味ないし。
っつかどうでもいい。


まぁでも騒がれんのもやだし仕方ないか……。

「はぁ、仕方ない、わかった。」

「やったぁ!」

「ただし!
私が返信返すか返さないかは気分しだい」

「あいあいさぁ!」

だから何だよその異様なテンションは。

「何だよ禀汰だけずりぃじゃん!
俺も知りてー!」


「は?」

「え?」

「樋山に教える必要性がないし」

「酷い!」

「樋山先輩!璃子先輩はあげないです!」

バッと柴が抱きついてきた。

何だこれ。
どういう状況?

理解不能。


「って何があげないだ!」

「あてっ!先輩叩かないで下さいよ」


「躾」

駄犬を躾て何が悪い。

「先輩俺人間です!」



「犬っつったじゃん、最初に」

「はい……」

「女王様降臨!」

「女王様言うな!」

せめてお姫様とか無いわけ!?
首をはねよ!
とか!?
言っちゃうんですか!?

言わねーよ!


「まぁ璃子にゃんは可愛いとこ沢山あるもんねー」

「美那都アンタ璃子にゃんはやめろ」

「やだー」

「やめろ!」


らちがあかない。
やめよう。そうだ、諦めよう。


「っつか柴君って本当に可愛いよねー」

「柴じゃないです羽柴です」

否定するとこそこ!?
可愛い認めんの!?

「柴にゃんでいいじゃーん」

「よくないです!」

美那都、アンタのキャラがたち始めたぞ。

「まぁ確かに羽柴にゃんより柴にゃんのが合うね」

「でしょー!?」

「先輩達酷いです!
り、璃子先輩も何か言って下さいよー!」


「どうでもいいし」

羽柴だか柴君だか羽柴にゃんだか柴にゃんだか知らんけど
かなりどうでもいい。


「ひ、酷いです!
今までで一番酷いです!」



あれが一番ってどうよ。

柴の価値観が知りてーよ。


「柴にゃん柴にゃん、璃子にゃんはクールビューティなんだよ」

「成る程!」

あ、にゃんに突っ込むの止めた。
そうか、お前も諦めたのか。

ってまてよ!!

クールビューティって何だよ!

「ってか柴も“成る程”じゃねぇよ!
何、普通に納得してんの!?」

「樋山きゅんは完全空気、ギャハハ!」

そういやコイツ、こんな笑い方だったっけ。

「きゅん?」

樋山は若干引きぎみだ。

無理もないけどねー。
うん、うん、分かるよ、その気持ち!

「にゃんは女の子と可愛い男の子限定、その他は殆どきゅん」

何その無意味な拘り。


「あれ!?今俺遠回しに可愛いって言われた!?」

さっき反応しなかったくせに、今反応すんのかよ!

アンタのお陰で何故だか私のツッコミスキルがレベルアップだよ!

どうしてくれんだよ!




「柴にゃんが可愛くなかったら何を可愛いと言うんだ」

もう駄目だコイツ。まじ末期。

「それは勿論、璃 子 先 輩 です!」

そうかそうか

って

「ええぇぇぇ!?」

「成る程な、柴にゃんはこういうのが好きか」

「何普通に会話続けてんの!?」

「はい!」

「何普通に答えてんのぉぉ!?」

しかも柴の野郎“璃子先輩”のとこ強調したよね!?


「成る程、成る程、柴にゃんは忠犬な訳だ」

「もう猫だか犬だかわかんねぇよ!」

ってツッコむ所そこじゃなかった!

いや、でも柴って柴犬からとった訳だし(※違います)
忠犬って忠犬ハチ公的なあれだし
でもにゃんって猫だし……

とか思ったらツッコんじゃったじゃん!


「だんだん璃子のキャラが崩れてきてると思うのよ、どうよ樋山君」

「激しく同意」

「激しく同意しないでえぇぇぇ!」

そして華音と樋山君は顔を合わせて“ほらね”と言うかの様に笑った。



「何だよ、何で無駄に息合っちゃってんの!?」

しばらくツッコむの止めようかな……。

「止めときな、璃子にゃんには無理だよー」

「酷いよ!美那都にゃん!」

「いやいやいや璃子にゃんには無理だって」


「お前らにゃんにゃんにゃんうるさいよ!」

華音様が怒りよった!!


「何か華音様と観音様って似てるよね」

「観音様、ギャハハハ!」

「イラッ☆」


やばっ、本気で怒りそう……。
本気で怒る前に謝らないと確実に死ぬ!!

美那都も同じ事を考えていたようでチラリとこっちを見、コクンと頷いた。

「「すみませんでした!」」


「分かればいいの、分かれば」

本当に本当の女王様は、私なんかじゃなくて、華音なのかもしれない。

怖くてとてもじゃないけど逆らえません!!

逆らった人を見てみたいくらい。