案の定、授業が終わると彼は私の席の前に立ちはだかった。

周りの女子生徒の視線が痛い・・。

「で、俺に言う事は?」

だるそうにポケットに手を突っ込んで、偉そうに私を見下ろしてくる。

何でこんな遠回しな言い方しかしないんだろ。

「悪かったわよ。ちょっと、ふざけただけじゃない」

そう言って、彼から取った消しゴムを差し出した。

「『ごめんなさい』は?」

消しゴムを空中に投げては受け取っての動作を繰り返しながら、こちらに視線を向けるわけでもなく彼は言った。

冗談ではない。

何か今、この場でその言葉を言ったら一生見下されそうな気がする。

「嫌よ。そんなの死んでも言わないから」

「・・・じゃあ、死んでみる?」

そう言って急に真顔でこちらを見つめた。

もしかして、本気で言ってんの?

何か恐くて言い返せない。

黙り込んでいると彼の顔が和らいだ。

「お前、本当に馬鹿だな」

笑いながら言う彼の顔。

その彼の笑顔を見て、頭の中に一瞬映像が流れた。



『結衣は本当に馬鹿だな』



そう言う少年の顔。

あれ、今のって何?

わけもわからず頭を抱え込む。

考えようとする度に、頭にズキッと痛みが走る。

「・・おい、どうした?」

そんな私の異変に気がついたのか、彼が話しかけてきた。

「何でもない・・」

そう言い返し保健室へ向かおうと席を立った瞬間、目の前が揺らいだ。

彼の声が遠くに聞こえる。

目の前が真っ暗だ・・・。

私はそのまま倒れ込んだ。