男が乗り込んだ透明のエレベーターに葵衣も乗ると、先程のロビーとは また違った匂いがした。
フルーティーな、柑橘系の匂い。
さっぱりとした、万人に愛される匂い。
「良い匂い…。」
思わず言うと、男は優しく笑って言った。
「エレベーターで酔う人とかいんじゃん?そんな人の為の香り。」
「…へぇ。」
確かに、これなら酔わなさそうだ。
ふと見ると、エレベーターのボタンは四葉のクローバーの形をしており、押すと黄緑色に変わるようだ。
現在地を示すのは てんとう虫で、それがチョコマカ昇っていく。
そんな細かい芸にも、葵衣の心は晴れていった。