「遅い」
数時間ぶりに会って一言目が遅いって…。
「女は準備に時間が掛かるの」
「お前は普通の女より長い」
「…そうかな?」
気にしてないように返事したけど本当はショックを受けていた。
他の女の準備を待ったりしてるんだ…。
「麻実、ほらさっさと行くぞ」
「あ…うん」
あたしは今から他の人と別れると決めたのに、
大地の一言であたしの頭の中はいっぱいだった。
「麻実?」
「…」
「麻実っ」
「あっ…何?」
気づけばもう車の中。
「お前なにボーッとしてんだよ」
「別に…」
「まぁそうなるか。2年間付き合った奴と別れるんだもんな」
そうだ。
今日で正尚と別れるのに…。
「まぁね…」
正尚のことなんてすっかり忘れてた。
「じゃあ、行くぞ?」
「うん」
「ちゃんと道案内しろよ」
「分かってる」
今は正尚だけのことを考えよう。
あたしはきっとこれが最後になるだろ、正尚の家への道を車で進む。