巫女に反論することは許されない。
反論したい、そんな行為は止めたい、それは皆の思いだ。
だがそれは許されない。
巫女は命令してきたのだ。
少女としての言葉なら、民は皆で反対し巫女を止めたであろう。
しかしそれでは神は呼べない。
だから巫女は神に仕える者として号令をだしたのだ。
その巫女に逆らうことは神にそむくこと。
それは、誰にもできない。
できないように巫女は仕向けたのだ。
その巫女の決意と自分たちの娘の優しさに民たちは夜を遠し泣き続けた。

翌日、春の日差しが上ると同時に作業は始められた。
ある民は大きな石を運び、それを削り祠にする。
ある民は大きな穴を掘り続ける。
数日続いたその作業中、誰一人として口を開かない。
ただただ黙々と作業を続け、涸れぬ涙を流し続けていた。

月明かりの綺麗な夜。
巫女は高台に立っていた。
巫女の後方には村の民全員が集まっている。
「綺麗・・・」
月と星と数カ月住んだ村を見つめ巫女が呟く。
遠くの山を見つめ一礼し、民たちに振り返り一礼し、一度微笑み、人一人が丁度入れるように掘られた穴に言葉なく身を沈める。
その姿が神でなく、いったいなんなのだろうか?
穴に身を沈めた巫女に、誰よりも巫女に近しい老婆が駆け寄った。
「名を。最後に名を。巫女様巫女様と呼んでいて娘の名を聞くのを忘れとった・・・」
「サクラ、そう申します。おばあちゃん、本当にありがとう。いつまでもお元気で」