「あの高台、ここら一帯を見下ろせる位置にみすぼらしくてもいい、祠を作りなさい。そしてそのすぐ横に大きな穴を掘りなさい」
つい先日、完治した足で駆け上がった高台。
この集落の美しさを目の当たりにしたそこを指差し、巫女の声は透き通り遠く響く。

ああ、しかしそれはいつもの少女の口調ではない。
娘、孫として感謝を伝えた少女の口調ではない。
口調は決意を秘めた命令形だ。

「おおお・・・なんてこと・・・なんてこと・・・」
まずその意味を理解した巫女の世話を一身に勤めていた老婆が泣きだした。
巫女にとって最も「おばあちゃん」と呼ぶにふさわしい一時の家族。
老婆の泣き声をきっかけに、次々と皆が破綻する。
大声で泣き、すすり泣き、ただただ唖然と佇む者もいる。
巫女は神を呼ぶと、確かに言った。
神を呼ぶために祠を作り、大きな穴を掘れと確かに言った。
きっとその穴は人一人が入れる大きさに掘らねばならないのだろう。

それは、人柱。
それは、人身御供。
そういうことだ。

なら、それに最も適した人物は?
それに気付き民たちは泣いた。
巫女は微笑んでいる
その巫女の気丈な気高さに泣いた。
娘は愛らしく微笑んでいる。
たった3か月前にできた娘との別れに泣いた。