2111年、4月。
あの震災から百年の時が流れた。
あの震災を経験した者は全て見送った。
辛い過酷な時代だった。
それでも子らは、皆満たされた笑顔で三途を渡っていった。

サクラはウキウキしていた。
春風が心地良いこの日、高台を上がってくる足音が聞こえる。
若い夫婦が、生まれたばかりの命をサクラに見せにやってきたのだ。
おお、愛らしい子じゃ。
「サクラさま、章と名づけました。この子を見守りください。よろしくお願いします」
夫婦が揃って手を合わせる。

「はじめまして章。そして、おかえり兵吾」

そっと、そっと、壊れぬように赤子の頭を撫でる。
この瞬間は嬉しくもあり、緊張もする。

「また皆にうまい米を、うまい野菜を食わせてやれ」

赤子は大きな泣き声で、それに答えた。

「あはは。元気な子じゃ。健やかに育てよ」


桜は咲き誇る。
悪魔に屈せずあの震災から百年たった今、桜は美しく咲き誇る。
5月にもなれば田畑は緑で埋め尽くされる。
「見よ、兵吾。皆の努力によりこの地は見事に復活したぞ」

桜咲き誇る、とある高台。
その桜の木の下、木漏れ日の中。
古風な竹細工で結われた髪と、歪な巫女装束が春風に揺れる。
サクラは新しい命と、愛する地を見つめている。

おわり。