その背中。
その背中を見れば聞かぬともわかる苦悩と葛藤。
しかし聞かねばならない。
「命を自ら絶つ。分かっておろう、それは罪じゃ。親に対する罪じゃ、子に対する罪じゃ。答えによっては、このサクラ、神として許さぬぞ」
時に聖母のような優しさで、時には死者に対し閻魔のような厳しさで。
神とは損な役回りかも知れない。
兵吾は震える背中で、ただ一言。
「守れなかった・・・」と。
くっ・・・その答えは分かっていた・・・
聞きたくなかった答え、けれども聞かなければならない答え。
向けられた背中をそっと抱きしめる。
悲しんでいるお爺ちゃんをどうにか慰めようとする孫のように。
「すまぬ、つらいことを聞いてしまったな・・・許せ」
兵吾は農業を生業とし生き甲斐としていた。
先祖代々受け継がれた田畑を耕し、作物を懸命に育てていた。
雨の日は誰よりも早く駆けつけ、自分の田畑以外にも他の田畑の面倒も見ていた。
仲間内には頼りにされ、すこしでもおいしくなればといつも考え、そうなるように実行していた。
農業を志す人がいれば出し惜しみすることなく、その知識と技術を伝えていた。
他でもない、兵吾は作物を育てることが好きだったのだ。
この地はそれができない地になる・・・
生業を失った。
喜びを失った。
先祖から受け継いだ地を、子に託そうと思ってた地を、失った。
「つらかったのぉ・・・悔しかったのぉ・・・もうよい、もうよいぞ。泣け、泣くがよい」
兵吾の背中が大きく震える。
泣かぬはずの男が泣いた。
「おまえの選んだ死は多くの悲しみを残した。大きな罪じゃ、きっと誰も許してくれぬ。けれど、このサクラが許そう。神として母として許そう。おまえは逃げたのではない、戦うために選んだ死なのだな。ならば許そう。多くの者がきっとおまえのように苦しむだろう。じゃがきっとおまえの死が東のやつらを動かし、残った者が、おまえの仲間がこの地を農業を救うであろう。そうなると信じようじゃないか。健やかに強く育ったな」
コクコクと、嗚咽混じりに頷く兵吾。
大きな背中は、まるで泣きじゃくる子供のように。
もうすぐ旅立つ我が子の背中を、サクラは泣きやむまで抱きしめていた。
その背中を見れば聞かぬともわかる苦悩と葛藤。
しかし聞かねばならない。
「命を自ら絶つ。分かっておろう、それは罪じゃ。親に対する罪じゃ、子に対する罪じゃ。答えによっては、このサクラ、神として許さぬぞ」
時に聖母のような優しさで、時には死者に対し閻魔のような厳しさで。
神とは損な役回りかも知れない。
兵吾は震える背中で、ただ一言。
「守れなかった・・・」と。
くっ・・・その答えは分かっていた・・・
聞きたくなかった答え、けれども聞かなければならない答え。
向けられた背中をそっと抱きしめる。
悲しんでいるお爺ちゃんをどうにか慰めようとする孫のように。
「すまぬ、つらいことを聞いてしまったな・・・許せ」
兵吾は農業を生業とし生き甲斐としていた。
先祖代々受け継がれた田畑を耕し、作物を懸命に育てていた。
雨の日は誰よりも早く駆けつけ、自分の田畑以外にも他の田畑の面倒も見ていた。
仲間内には頼りにされ、すこしでもおいしくなればといつも考え、そうなるように実行していた。
農業を志す人がいれば出し惜しみすることなく、その知識と技術を伝えていた。
他でもない、兵吾は作物を育てることが好きだったのだ。
この地はそれができない地になる・・・
生業を失った。
喜びを失った。
先祖から受け継いだ地を、子に託そうと思ってた地を、失った。
「つらかったのぉ・・・悔しかったのぉ・・・もうよい、もうよいぞ。泣け、泣くがよい」
兵吾の背中が大きく震える。
泣かぬはずの男が泣いた。
「おまえの選んだ死は多くの悲しみを残した。大きな罪じゃ、きっと誰も許してくれぬ。けれど、このサクラが許そう。神として母として許そう。おまえは逃げたのではない、戦うために選んだ死なのだな。ならば許そう。多くの者がきっとおまえのように苦しむだろう。じゃがきっとおまえの死が東のやつらを動かし、残った者が、おまえの仲間がこの地を農業を救うであろう。そうなると信じようじゃないか。健やかに強く育ったな」
コクコクと、嗚咽混じりに頷く兵吾。
大きな背中は、まるで泣きじゃくる子供のように。
もうすぐ旅立つ我が子の背中を、サクラは泣きやむまで抱きしめていた。