零次朗は小太郎に起こされた。

《零次朗、起きろ。今日は入学式だろう。遅刻するぞ。》

「もう少し寝かせろ。遅くまで起きてたから、眠い。」
零次朗は布団を頭までかぶった。

《しょうがないな。いい加減にしろよ。》
小太郎はそう言うと、腰に差してある剣を抜いて、零次朗の尻にあてがうと、呪文を唱えた。
《オン・バサラ・サトバ・アク》
 剣が一瞬光ると、電撃が零次朗を襲った。

「ギャァッ。」

悲鳴にならない叫び声をあげて、零次朗は飛び起きた。

《目が覚めたか、零次朗。今日はおめでたい日だから、少し電撃の 威力を増しておいた。
 すっきりと目が覚めたろう。》

「小太郎。何をするんだ。おまえの電撃はものすごく痛いんだ。ああ、尻が焼けた。ヒリヒリする。」
零次朗はパジャマのズボンをおろして、尻をなでている。

突然ドアが開き、妹の彩花が入ってきた。
「お兄ちゃん、早くしないと遅刻するわよ。きゃっ、何してるの。パンツおろして。信じられない。」
彩花は手で目を覆うと部屋を出ていった。

小太郎は笑っている。

「こら、おまえのせいだろう。彩花に見られたじゃないか。」
《別に良いじゃないか。兄妹なんだし。》
「今日は大事な日なのに、朝からこれじゃ、先が思いやられるぜ。」

「零次朗、ご飯できているわよ。早く食べなさい」
 母香織の声が階下から聞こえてきた。

「わかってるよ。今行くから。」
急いで学生服に着替えると零次朗は、階段を駆け下りた。

彩花は食事を済ませて出かけるところだった。
「お兄ちゃん、先に行くわね。お母さん、行って来ます。」
「行ってらっしゃい。気を付けてね。零次朗も早くしないと、入学式に遅れるわよ。」
香織には見えない小太郎が、零次朗の横に立っている。

小太郎は人の姿をしているが、霊魔という存在だ。
幽霊とか、妖怪ではない。

零次朗が赤ん坊の頃からそばにいたので、零次朗にとっては当たり前の存在になっているのだ。
双子のように育ってきたが、零次朗は誰にも小太郎に事を話してはいなかった。