『…ごめん』
…その、指先が。
手のひらが、伝える言葉が、俺の中に深く突き刺さる。
何も聞こえないのに、全てが俺の中に響いている気がした。
たった一言。
その一言が、俺の中に押し寄せる。
…芹梨を、傷付けた。
「芹…」
名前を呼ぼうとしたが、その前に彼女が踵を返して歩き出した。
俺の声は、芹梨には届いていない。
俺の横を大学生くらいの団体が通り過ぎる。そのせいで、芹梨の背中が見えなくなる。
そんな中、俺は自己嫌悪という自己嫌悪に包まれていた。
『…ごめん』
何で、芹梨が謝る。
芹梨は何も悪くない。
ただの俺の妬きもちなのに。
わかっていたはずだ。
芹梨は、人の言葉を誰よりも深く理解しようとする子だって。
その裏も表も全部、聞こえない分感じ取ろうとするんだって。
『わかりきれない』
俺のその言葉を、芹梨はどう受け取った?
ただの妬きもちを、彼女はどう感じた?
…聞こえない自分を責めた結果の、『ごめん』だったら。
「…っ、馬鹿か俺は」
刺された様な心臓の痛みと共に、俺は駅を駆け出した。