「何」
『見てくれなきゃ、話出来ない』


芹梨の視線が、真っ直ぐ俺に向かっている。

それがあまりにも真っ直ぐで、あまりにも綺麗だから、俺は思わず下唇を噛んだ。


こんな俺じゃ、彼女とは釣り合わない。


「別に俺と話さなくても、芹梨の周りには手話できる奴沢山いるだろ。芹梨の言葉をわかる奴だって沢山いる。俺は…」


真っ直ぐな芹梨の視線を、俺の方から断ち切る。


「俺は、芹梨の言葉を全部わかりきれないから」


…わかりきれない。

もどかしい程の沢山の言葉の壁が、俺達の間にはある。

お互いをわかる為に言葉は不可欠なのに、俺はその手段すら覚束ない。


そんなんじゃ、芹梨をわかりきれない。


視線を反らしているから、耳に入る駅の近くの雑踏しか感じられなかった。

やがてゆっくりと、俺の服を掴んでいた芹梨の手が離れる。

反射的に、俺は芹梨の方を向いた。


俯いた状態の芹梨。

駅のホームの灯りが、彼女の睫毛の影を頬に落としている。

俺の服を離した手で、彼女はゆっくりと、その言葉を言った。