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終電もまだある時間だったから、俺は一人で駅に向かった。
歩きながら、気持ちがどんどん沈んでいくのがわかる。
帰り際の芹梨に対する態度。あれは自分でも、なかったと思う。
でもあの気持ちのまま、芹梨に何を言えばいいのかわからなかったんだ。
芹梨と近付いていると思っていた。
でも今日、紺との会話を見せられて、俺はまだ芹梨の一面しか見ていないことに気付かされた。
そういえば、遊園地。
あの日観覧車に芹梨と一緒に乗ったのは、紺だった。
あの日、あの狭いゴンドラの中で二人は何を話したのだろうか。
俺よりはるかに出来る手話を使って、俺よりもっと沢山の芹梨を、あの日紺は知ったんじゃないだろうか。
俺は大きく息をつき、髪をくしゃっと掻いた。
…だせぇ。妬いてるだけだろ。
俺はもう一度ため息をつき、駅に入ろうとした。
その瞬間、くいっと後ろに引っ張られる。
振り向いて、驚いた。
そこには、少しだけ息の上がった、芹梨がいたから。
「え…何してんの」
俺は手話を使う事も忘れて聞いた。
芹梨は少し息を整えて、もう一度、あの手話をした。