その手は、『どうしたの?』と言っていた。それを俺は、確かに読み取った。 読み取ったのに。 芹梨の大きな瞳が真っ直ぐ俺を見つめている。 俺も確かに、その視線と交わる視線を送っていた。 反らしたのは、俺だった。 芹梨から視線を反らすと、もう彼女の声は聞こえない。 表情も、何もかも見えない。 それで良かった。 そうする事で、この嫌な感情に蓋をする事ができたから。 そのまま芹梨に何も返すことなく、俺は店を後にした。