そこには、笑顔で片手を上げている背の高い紺がいた。

「よ」
「今日来れないんじゃなかったのかよ」
「思ったよりバイト早く終わったんだよね。どうせ朝までやってると思ったから」

そう言って、盛り上がる皆の中に入って来る紺。
丁度空いていた席に座る。そこは、偶然か必然か、芹梨の隣。

「何頼む?」
「とりあえずビール」

メニュー表を見ずにそう頼んで、俺を見つけた紺は、何も変わらない笑顔で「よ」と笑った。

俺も同じように笑う。
笑ったつもりだった。でも頬の動きが、いつもと違う事にも気付いていた。

紺が来たからと言って何が変わるわけでもなく、皆同じ様に盛り上がっている。
そんな中、違うのは俺だけ。

視線の先に紺を入れる。
何も変わらず、頼んだビールを飲む。

隣の芹梨が、紺に近くのサラダを取り分けた。
それを渡し、紺も笑顔で「ありがと」と受けとる。

一連の流れ。普通なのに、俺は見たくないものを見てしまった時の様に苦い感情が体の中に広がるのがわかった。


何だよ俺。
何気にしてんだよ。

そんな自分が嫌になり、ふてくされ気味に近くの枝豆をつまんだ。