『手話、わかる?』そう聞く芹梨に、俺は「うん、大体」と返す。

大体わかる。今芹梨が、俺に凄く嬉しい事を言ってくれてること。

『あたしと仲良くなりたいだけなんだって、特別なことは何もないんだって。その言葉があったから、さっき紺君が『女の子はいいよ』って言った時、いつもみたいに気にならなかった。いつもなら、あたしに気を使ってかなって思ってたと思うもん』

俺にわかる様に、ゆっくり、丁寧に手話で伝えてくれる芹梨。

所々わからない箇所はあったが、大体芹梨の言わんとする事はわかった。

さっきの紺の一言。正直俺は、いや、俺も含め他のみんなは、何の違和感もなく捉えていたと思う。

芹梨は多分、俺が思うよりもずっと、他の人が発する言葉に敏感だ。

聞こえない分、その言葉の裏も表も全部、わかろうとしているんだ。

『あたし、今日本当に楽しい。遊園地来たのなんて、久し振りだもん。ありがとうね』

そう言う芹梨の頬には、小さなえくぼが出ていた。

その笑顔を見て、自分の表情が自然と綻ぶのがわかる。


…もっと知りたい。

もっと近付きたい。


芹梨の言葉の奥に、もっと触れたい。