『一人じゃ持てないでしょ?一緒に並ぶ』

そうして自然に、俺の隣に並ぶ。

少し下にある芹梨の綺麗な横顔に、俺の心臓は高鳴った。

…だから、そういう優しさ見せるの反則だろ。

早くなっている鼓動に気付かれない様に肩を叩いて、「暑いな、昼間は」と他愛ない話題を振った。

「ジャケット、脱いだの?」
『うん。さすがに暑かった』
「あれ、可愛いね。どこのやつ?」
『ミュア。知ってる?』
「うん。確かに、ミュアっぽいかも」

そこで芹梨が真っ直ぐ俺を見つめるから、俺は正直戸惑った。
真っ直ぐに見つめられると、視線をどこにやればいいか迷う。

「え、何か手話、間違えた?」
『ううん。ただ…男の子の口からそういう話題が出るの、新鮮だったから。…わかる?』
「えっと…俺が、服の話題出すのが、新鮮?」

何とか読み取ると、芹梨はこくんと頷いた。

「あー、やっぱ、ちょっと変わってるよな。服飾科だし、俺、レディースのデザインやってるから…」

わからない所は手話を使わず、ゆっくり話す。
芹梨は読み取ってくれて、『そうなんだ』と言った。