入り口付近に立つその姿を、見間違えるはずがなかった。
相変わらず綺麗な黒髪は、今日は合コンの時の様に巻かれずに、ストレートにブローされている。
オフホワイトの襟付ブラウスに、ノーカラーのニットジャケット。
膝よりかなり上で揺れるネイビーの花柄のスカートが、形のいい足を更に綺麗に見せていた。
近くにいた恐らく俺と変わらないくらいの年齢だろう男集団が、彼女に視線を注いでいるのがわかる。
彼女は、どこにどういても、やっぱり視線を集めてしまう。
その横顔は、俺の方を向かずに入り口をずっと見つめていた。
多分、俺が来ている事に気付いていないんだろう。
彼女を見ていた集団が、こそこそ話を始める。
その足が彼女の方に向く前に、俺は立ち上がって彼女の方に向かった。
「芹梨」
とんっと肩を叩く。
芹梨は、その視線をくるりと俺に向けた。
視線がかち合った瞬間、芹梨の頬が緩む。
『おはよう』
「おはよ」
『この手話、わかった?』
「わかるよ。今日は、いい天気ですね」
俺がまるで教科書のフレーズの様な手話をすると、芹梨は面白そうに笑った。