視線を上げた俺と芹梨の目が合う。
少しだけ不安そうな芹梨の目元に、不謹慎ながら俺の心臓はスピードを加速させた。
芹梨はその綺麗な人差し指を自分の顎に沿わせて、俺に手のひらを見せ、首を傾げた。
ピンとくる。これは、手話だ。
そして俺に、何か聞いている。
「えっと…」
何とか読み取ろうとしたが、手話経験のない俺にはさっぱりわからない。
そこで芹梨は、はっとして手のひらを自分の顔の前で縦にする。
あ、これはわかるかも。
『ごめん』、かな。
そのまま芹梨は、ペンを持ってスケッチブックに文字を走らせた。
『無理ですか?』
なるほど、さっきの手話は『無理?』ってことか。
不安そうな芹梨の表情と重ね合わせたら、理解できる。
俺は芹梨の方を向いて、「いや、大丈夫」と言った。
「そんなんでいいなら、全然。友達に聞いてみるよ」
そう言う俺の口元を読み取って、芹梨はようやく笑顔になった。
そうしてあの、『ありがとう』という手話をして見せたのだ。