……………

控え室の前に立つ。
ノックをしようとしたが、その意味がない事にすぐに気付いた。

でも俺は、一瞬考えて、手の甲を二回ドアに当てる。

こん、こん、と小さく鳴る。
やがてそのドアノブが、ゆっくりと回った。


ドアの向こうからひょこっと顔を出した彼女に、俺は優しく微笑む。


「おはよう、お姫様」


そう仰々しく言う俺に、芹梨もちょっと困った様な笑顔を見せた。

『おはよう』
「俺が来たこと、よく気付いたね」
『なんとなく、そろそろかなって』
「愛だねえ」

俺がそう言うと、芹梨は苦笑して『そうかもね』と言う。

俺たち二人の間に、そう特別な空気はなかった。

四年間の集大成のショー。
その重大さはわかっていたが、でもどこか落ち着いた気持ちでいた。

『ねえ』

そんな俺に向かって、芹梨は俺を呼ぶ仕草をする。
俺は『ん?』と首を傾げてみせる。