「行ってくるわ」
そう言って、俺は控え室のドアを開ける。
「遥」
背を向けた俺を、紺が呼んだ。
振り返った俺に、少し真剣で、そして少しいたずらそうに言う。
「今日のショーは俺たちみんなで作り上げてきたけど…ドレスは遥、お前のものだからな」
にっと笑ってそう言う紺の言葉の意味を、俺はよくわかっていた。
俺にしかできないドレス。
それができたのは、あの日の紺の言葉があったからでもあるから。
「うん」
俺は力強くそう頷いて、控え室を後にする。
皆に心から素直にお礼を言うのは、ショーが終わってからにしよう。
そして今日の主役は、俺でも他のメンバーでもない。
その主役に会いに、俺はB棟へと足を向けた。