…どれだけ勇気がいっただろう。
たった一言、俺の名前を呼ぶだけだけど、その一言は計り知れない程大きなもので。
今俺の中で震えながら泣いているこの女の子は、とても弱くて、そして、俺よりもずっとずっと、強い。
「…芹梨」
泣きそうになったのがばれないように、俺は抱きしめたままその耳元で呟いた。
「芹梨」
たった一言、名前を呼ぶだけなのに。
なのにその一言は、何かを変える力を持っていた。
何を甘えていたんだろう。
描けない事を芹梨のせいにしていた。
圧巻の世界を見せられて、卑屈になっていた。
プロの世界に敵うわけがない。
そんなの当たり前だ。
前に紺が言っていた言葉の意味を、今ようやく知る。
『遥は遥だけの誰にも負けないもの、作れると思うけどね』