「あ…」

呟いたのは、誰だっただろう。

その場の空気を持て余していたのは、俺たちだけではなかった。

「ごめん…なんか、話し合い中だった?クラスの他の子に圭吾君達どこいるか聞いたら、多分ここだって言ってたから…」

なるべく普通のトーンで言ったのは伊織ちゃんだった。
多分、今日は圭吾と約束か何かしていたのだろう。
たまに突然学校に来る事もあったし、それについて芹梨が来ることもよくある事だった。

よくある事なんだけど。
よりによって、何でこんな時に。

芹梨の表情を見るのが怖く、俺は斜め下を向いたまま、教室の出口に向かった。

「遥!」

紺の声が追いかけたが、俺は足を止めない。

芹梨の横を通り過ぎる瞬間さえ、俺は顔を上げないまま。



すり抜けた瞬間、芹梨の柔らかい香水の香りが、俺を刺す様に追いかけた。