その瞳はゆっくりと俺を見つめて、意を決した様に手のひらを動かす。


『就職の・・・事、なんだけど』


その手話を読み取った俺は、心のどこかでそうか、と思った。

芹梨の就職。それは、恐らく俺とは違うハードルがあるのだ。
真剣な話になると察し、俺は座り直して「うん」と頷いた。

芹梨はためらいながらも、ゆっくりと手話を繰り出す。

『あたし、耳、だめでしょ?就職先もなかなかなくて・・・ゼミの先生も協力してくれてね、ひとつ、難聴でもできる事務の就職先がみつかったの』
「見つかったの?」

正直俺が思っていた内容と違ったので、驚いて聞いた。

就職先が見つかった、という事は、めでたい話じゃないか。
内心ほっと一息ついている俺とは裏腹に、浮かない顔の芹梨は頷いて続けた。

『うん。・・・でもね、今・・・ちょっと、考えてることがあって』

ふうっと息をつく芹梨。俺は眉間にしわを寄せ、『何?』と指を動かす。

『就職先見つかること自体奇跡みたいなものだし、正直、迷ったんだけど・・・やりたいことが、あるの』

そう言うと芹梨は真っ直ぐ俺を見て、今までで一番真剣な表情で言った。