涙に濡れた睫毛を上げて、芹梨は俺を見つめる。

今までで一番近い芹梨が、俺の鼓動を速める。


眉を下げて微笑み、さっき俺が見せた手話と同じ手話を繰り返す。


『好きって、言ってくれた』


そう言って微笑む。
俺も笑って、芹梨の髪を撫でた。


そんな芹梨の唇が、やがてゆっくりと、動く。


“…すき”


俺はその、声のない声を見つめた。

初めて芹梨から発せられた言葉が、俺の奥深くに溶ける様に染み込んでいく。



“好き…遥”



泣き笑いの表情のまま、初めて呼ぶ俺の名前。

言い終わるが早く、俺はその唇を塞いだ。


思い切り重ねたその唇をゆっくりと離す。

微かに震えている芹梨は、それでも俺の瞳を飲み込む様に見つめる。



今度はゆっくりと唇を重ね、後はただ、深くがむしゃらにお互いを求めた。




…言葉を紡ぐ唇を塞いで初めて、俺達はお互いを感じる事ができたんだ。