「芹梨が、その…可愛いから、だよ」


…言いたかった、けど。

最後の最後で、照れ臭くて思わず目を反らしてしまった。

だせぇ。

そんな俺の手を、芹梨はゆっくり離した。
それから目を反らした俺の視線の先で、その綺麗な手で丁寧に言う。


『…ありがとう』


俺もまた、彼女の方を向いた。

少しだけ染まった頬は、日焼けのせいか。
さっきと同じように、でも少しだけ嬉しそうに微笑んだ芹梨。

思わず、心拍数が上がる。


『遥君に謝りたかった。でも…謝ったら、伝えたら、もしかしたらもう、手話で話せなくなるかもとも思った。…それは、嫌だったの。そんなずるさから…謝れなかった』

そう言って、今度は芹梨がから視線を反らす。

夏の陽射しを浴びて、睫毛がきらっと輝いた。


『…遥君と、話してたかったから。…ずっと』


染まる頬は。

少しだけ震える指先は。

反らした視線は。

高鳴る心臓は。


…その言葉の、意味は。


「芹…」
「え、遥?」


突然現実に戻された。

耳に一気に海のざわめきが戻ってくる。

それと同時に、聞き覚えのある高い声。


俺は振り向いて、一瞬、まばたきを忘れた。