俺達のテーマは『空気』。
漠然としたその単語から、あらゆる五感を使ってイメージし、立体化していく。

デザイン専攻の俺がまずスタイル画を描き、それに沿ってメイクやヘアスタイル、最終的にはショーの世界観を確立していくのだ。


「できそう?イメージ」

廊下で紺が話しかけてきた。
手にはいつの間に買ったのか、缶コーヒー。

「あぁ。何となくイメージはあるし、今日何体か描きます」
「さすが。仕事が早いねー」
「任せろって」

自慢気にそう言うが、それだけの根拠はあった。

テーマが決まってから、ずっと頭の片隅にある空気感。エアリーなイメージ。

家に帰るや否や、俺は早速スタイル画の作成に取り掛かった。


手を動かしながら、びっくりするくらいイメージが膨らんでいくのがわかる。
手が進む度、言い表せない充実感に満たされる。

こんなにスタイル画が仕上がるのは、初めてだ。

不意に机の上の携帯が揺れた。
ランプの色で、見なくても誰だかわかる。

携帯を開いて、その名前に頬が緩んだ。