「…ありがと」
俺まで泣きそうになるのを堪えて、小さくそう言った。
芹梨はその小さな声さえも拾ってくれる。
眉を少し下げて、えくぼを見せて笑ってくれた。
俺はさっき掴んだ腕にもう一度手を伸ばす。
でもその手は、腕を掴む事なく、彼女の小さな手を掴んだ。
細く長い指は思ったよりも冷たい。
一瞬その手に力が入ったが、やがてゆっくりと、指先が俺の掌に触れる。
彼女の言葉を伝えてくれる掌。
俺は壊れ物を扱うかの様に、誰よりも優しく、それを包む。
冷たい指先から、それでも芹梨の体温を感じる事ができた。
芹梨を感じる度に、俺は言い様のない苦しさに教われる。
目の前の、今にも泣きそうな笑顔の彼女を。
俺が思うよりも、ずっと脆くて、ずっとずっと強い彼女を。
その時俺は、今すぐにでも、抱き締めたくてしょうがなかった。