レダは突然、歌い出した。

曲は、Yasashisa。

実世界の歌で、作曲は河野和美。作詞は、速水明日香。

「その歌は!?」

絶句する僕に、レダは悲しく微笑んだ。

「あなたが教えてくれた曲よ。私を励ます為に、歌ってくれた曲」

魔物に襲われ、精神的にもボロボロになっていたレダに、僕が歌ってあげたのだ。

「この曲は好きよ。人間は、いろんな人の優しさで繋がっている。人は、独りでは生きれない。だから、自分も他人に優しさを送ろう」

レダは天使の翼を広げ、朝日の中、飛び上がった。

「だったら、なぜ!人間を滅ぼす!」

僕も炎の翼を広げ、空中に飛び上がった。

「簡単なこと…。私は、人間ではなく!天使よ!」

空中で、僕とレダはぶつかり合った。

「く!」

何度も激しくぶつかり合う度に、僕の体にダメージが蓄積されていく。

「赤の王よ。あなたが、どれだけ強力な力を持とうと、光に照らされない闇はないのよ」

「チッ」

炎の翼が消え、海面に向けて落下していく僕を、レダは見下ろしながら、手のひらを向けた。

「人間がつくったものの中で、歌は価値がある。だから、歌だけは残してあげる。私の中で」

レダの手のひらから、凄まじい光が放たれ、海面に落下した僕に直撃した。

すり鉢状に抉れた海面は、近くに浮かぶ空母を大きく揺らせた。

「そんなに数がいなくても、私達だけで、人間を滅ぼせる」

レダは、手のひらを空母に向けた。

「だから…」

レダは、歌を歌い出した。

レクイエムを。


「させるかあ!」

抉れた海面から、僕が飛び出してきた。

「無駄よ」

レダから放たれた光の量は、先程の数十倍だった。

「さようなら」

光は、辺り一面を覆い尽くす…はずだった。

「え」

レダは、目を見開いた。

光は一瞬で、消え去ったからだ。

その代わり…さらに眩しい別の光が、レダの前に存在していた。

「あ、あなたは…」

レダの声が、震えていた。

「闇ではないの?」