「ああ…」

九鬼は手を伸ばしたが、もう触れることはできなかった。

ただの砂と化したサーシャだったものを見下ろし、九鬼は肩を落とした。

「結局…何だったんだ」

詳しい全貌が、わからないまま…戦いの幕は下りた。




「結局…」

その戦いの終わりを感じているものが、もう1人いた。

「何だったんでしょうか」

赤星家から出た麗菜こと明菜は、ドアに向かって頭を下げた。

この辺りにかけた催眠術は、もうすぐ解ける。

浩一の母親も、夢から覚めるであろう。

頭を上げると、明菜はある方向に顔を向けた。

建物が密接している為に見えないが、明菜の実家があった。

異世界で死んだ明菜は、この世界では、行方不明となっていた。

「…」

明菜は、実家の方にも頭を下げると、反対方向に歩き出した。

今更、顔をだすつもりはなかった。

自分達は、死んだのだからだ。

「先輩…」

明菜は、真っ直ぐに前を向きながら、美奈子に訊いた。

「ここと向こうの絆を斬らなくて、よかったんですかね?」

(そうだな…)

頭の中で、美奈子の声が響いた。

少し悩んでいるようだ。

数十秒後、美奈子は言った。

(やはり…あたし達は死人だ。生きているやつらの世界をおかしていけない。だけどな!)

明菜から、美奈子へと姿が代わった。

「残さなければならないものもある!」

美奈子は前方を睨むと、テレポートした。





「麗菜ちゃん」

赤星家の玄関から、母親が出てきた。

「どこに行ったのかしら?」

そして、歩道に出た瞬間、催眠術は解けた。

「あ、あたし」

周りをキョロキョロ見回してから、家の中へと戻った。

「何をしに…出たのかしら?」

母親はドアを閉めながら、首を捻った。

その数秒後、母親はさらに驚くことになる。

自分が準備している食事の量の多さに。