…二度目のため息をついた櫂兄ぃが、ぎしっと音を立てて椅子を立つと、櫂兄ぃのベットに腰を掛けてた私の前に中腰になって、私と目線の高さを合わせようとするのを、窓の外の景色に気を取られてるふりをして、なんとか保つ。
 私の凄く苦手なのの一つが、目を合わせること。
 昔、ちょっと鋭いクラスの子に「逢音っていっつもどこ見てしゃべってんの?」って言われたことあったっけ…。
 もちろん、お姉ちゃんズも櫂兄ぃも、気づいてはいるけど、敢えて突っ込んでは来ない。




 「逢音」





 深く、刻み込むように、櫂兄ぃの声が響く。





 「僕も、姉さんたちも、逢音に対して、見ている先は恐らく一緒です。全てを隠して、すべてから逃げて、逢音には何が残りますか?」





 「逃げてないもん。めんどいだけだもん」




 多分、お姉ちゃんズなら「そう、なら好きになさい」で終わる。
 でも多分、櫂兄ぃはそうは言わない。




 多分、言いたいことは一緒だけど、そこまでの過程が違うのかもしれない。




 それでも、違うと思ってても多少怯えた私に、困ったような顔をしながら、櫂兄ぃは私が思ったように言ってくれた。





 「困りましたね。本当に今日だけですよ。用意はできてるんですね。車に乗って待ってなさい」






 よしっ。






 「ありがとうっ、櫂兄ぃ!!!」