「ゆき~昨日どうしたの?」
小百が心配そうに顔をのぞきこんだ。
「ごめんね~ちょっと酔っちゃって。」
「そう?無理言ってごめんね」
「ううん。こっちこそごめんね~…美容師さんにあやまらないとね」
と言ってあたしは 朝の更衣室を出た。
(もう…無理なのに)
あたしみたいな障害を持ってる人はきっとたくさん恋愛している。
だってみんな恋愛したくてしたくてたまらなくて 女の子になるんだもん。
きれいな服をきて
丁寧にメイクして
長くて艶のある髪をもって
素敵な人に恋をする。
それだけのことに 今までどれだけ恋い焦がれてきたか。
なのに あたしは恋愛ができない。
理由は決まっている。
きっとそれは――――…
「木山さん」
「はい。」
木山はあたしの名字。
「今日賛共商事との合同会議だから資料いつもの倍綴じといてくれ。」
「はい。」
会議の資料まとめはあたしの仕事だ。
会議中にコーヒーを出すのは小百の仕事。
つくづく楽な仕事だと思う。
あたしが勤めてる会社は全国チェーンの洋菓子店。
企画部に所属しているため
今までいろいろな会社とコラボ商品を出してきた。
そして賛共商事。
ここの企画部はエリート揃いで有名だった。
…小百、きっと合コンのはなしするんだろうなあ。