「ゆき~そのワンピース似合うね~」
「ほんと?ありがと」
今日はそのワンピースを着ていた。
思い入れのあるワンピース。
これを着ていると必ずなにかが起こる。
初めて着たのは 大学1年の初夏。
初恋と呼べる恋が始まった日だった。
2回目は 大学2年の春。
初恋の人と旅行に行って初めてキスをした日だった。
そして3回目は―――。
「ゆき?どした?」
「あっうん。なんでもない。」
「そ?…じゃ行きますかー!」
小百はコロンを撒いて夕方の更衣室を出た。
「――…じゃ二人は彼氏いない歴結構長いんだ?」
「はいっもう寂しくて~」
小百は 美容師の男とキャッキャはしゃいでいた。
「あれ?ゆきちゃん、呑まないんだ?」
声をかけてきたのは もう一人の美容師だった。
「はい。あした早いんで。」
「えらいね~!あっじゃあノンアルコール頼む?それとも―――…」
「あ、あの。ちょっとお手洗い行ってきます。」
あたしは席を勢いよく立ち 小走りでトイレに向かった。
(もう…むりだ。あたしはもう誰も好きになれない。)
あたしは泣いていた。
女の子になる という夢は叶えられたのに 恋をする という夢は絶対に叶えられないという絶望感に。