「……ぇっと。」
思わずカニを氷に戻した。
「あのっ…これはわざととかじゃなくて、その…」
その人はめちゃくちゃ焦っていた。
“その人”って言うのは……
「とりあえず僕はここの近くにあるマンションに住んでるんです。」
慌てまくったあと そう言った。
クスッ、
「え?」
「…ぁ、すいません。おもしろくて。」
私は思わず笑った。
だってその人はカニを持ちながら 説明してたんだもん。
「あっ…カニ…」
その人も それに気付いて
苦笑いした。
「…あの、この前はすいませんでした。」
「え?」
「…だって、僕が遅刻したせいで お二人に迷惑をかけてしまったので…」
「えっ全然迷惑だなんて…」
“その人”とは例の賛共商事の人だった。
「これからは気をつけるんで」
その人は 笑ってそう言った。
また、息がとまった。