『一緒に登校しないでよ?夜くん有名人なんだから…』
「……」
黙る、割には隣を歩く。
その横顔を見上げたけれど、色素の薄くなった蒼はこちらを見てはいなくて、何を考えているのかやはりわからない。
「昨日のは、もう平気なの?」
夜くんがポソリ、訊いた。
その変な気遣いに動揺を隠そうとした私は『そっちこそ、具合どう?』と訊き返す。
「んー…。平気」
『そう、』
平気なのか平気じゃないのか、それさえもわからない。
それがもどかしく焦れったくて、彼のそういう所全てを暴きたくなる私はなんなのだろう。
―――踏切
ガタン、ガタンと特急が通り過ぎて、今日もロングコートに両手を隠す夜くんの髪が揺れた。
そのビー玉の瞳には私ではなく、過ぎ去る電車が流れていく。
カンカンカンカンカン――
ようやく向こう側が見えたと思いきや、突如金切り声が耳をつんざく。
「キャー…!!!ほんとに居たー!」
思わずしかめ面で前方を見やると、3人の女の子たちが互いに手を取りながら飛び跳ねてこちらを見ていた。
(…あぁ、)
誰かにこの状況を説明されなくとも、すぐに事態は飲み込めた。
彼女たちの視線の先に映り込むのは、紛れもなく隣の無機質男だ。
「…うる、さい」
私にさえも聴こえるか聴こえないかの小さな声で夜くんがそう言ったのがわかった。
彼は僅かに眉を顰め、忌々しそうに向こう側を見ていた。
もっとも、彼のその表情は本当に微細で、普通の人になら無表情に見えるそれ。
けれど、なんだかんだ一緒に居て、皮肉にもその微妙な変化に敏感になった私には伝わった。