いつものように途方もない思考をめぐらせていると、誰かに肩を叩かれた。
 「よっ!勇治!おはよう!」
 「あぁ、進二か。おはよう。」
 こいつは藤村進二。中学の時からの親友だ。

 「おいおい、お前テンション低すぎるぞ!高校生活第1日目なんだぞ!」
 「ははは・・・、いつも通りだよ。進二が気合入りすぎなんだって。」
 「だってお前、高校だぜ!?俺たち今日から高校生なんだぜ!?楽しみじゃねーか!ワクワクするだろ、普通!」
 「そういうもんかな・・・?」
 「だー!もうっ!お前、そんなんじゃ高校生活満喫できねえぞ!もっとテンションあげろ!!」
 「はははっ・・・、そうだな・・・。」
 俺は苦笑いをした。

 「・・・勇治。」
 進二は急にまじめな顔になった。
 「高校って、いい機会だと思わないか?」
 「・・・進二・・・?」
 「お前はもう十分苦しんだだろ。もう忘れろ。な?」
 「・・・・・・・・・。」
 何も言えなかった・・・。
 「まっ!とにかく今日から高校生だ!もう3年間よろしくな!」
 進二はそう言うと、力強く自転車をこいであっという間に見えなくなった。

 「忘れろ・・・か・・・。」
 進二が見えなくなった後、俺は1人でつぶやいた・・・。

 忘れられるわけがない・・・。
 あの日から俺の人生には、世界には、色がなくなった・・・。人間が単なる有機化合物にしか見えなくなった・・・。
 進二はいい奴だと思う。あの日以来、ずっと俺のことを気にかけ、励ましてくれる。
 でも・・・、俺の中では、やっぱりあいつも有機化合物にしか見えない・・・。
 いい奴だと“思う”としか言えない親友なんて・・、俺は最低だな・・・。

 俺は、本当に生きていていいのか・・・。生きなければならないのか・・・。

 ・・・そうだな。生きなければならないんだ・・・、あいつの・・分も・・・。

 そんなことを考えているうちに学校に到着した。
 青葉北高等学校。校門の上にはそう書いてあった。
 この校門を1人でくぐることになるとは、本当に思いもしなかった・・・。