教室内はまだざわめいていた。
 俺は教科書を開いて、ノートに今日の日付を書いていた。

 「あ、真田君。」

 前を見ると朝倉が立っていた。
 「あぁ、おはよう。」

 朝倉は俺の前の席に静かに座った。

 「えっ・・・?」

 「左に1つずれただけだったの。」
 彼女は軽く笑った。
 「あぁ・・・、そう・・なんだ・・・・。」
 俺はあっけにとられた顔をしていた。

 「よろしくね。」
 彼女はにっこりと微笑んだ。
 「あぁ・・・、うん・・・よろしく・・・。」
 ドキドキしながら教科書に目を落とした・・・。

 休み時間になった。窓の外を見ていると俺の席に進二がやってきた。
 進二は正面の朝倉の席に座った。

 「おいおい!朝倉ってここの席なんだろ!?」
 「あぁ・・、そうだな。」
 「なんかすげーよ!それ!!」
 「え・・?何が・・?」

 「何がってお前・・・。遥ちゃんそっくりの朝倉がお前の前に座るなんて、運命感じるだろ!?」
 「ははは・・・、なんだそれ・・。ただの偶然だろ?」
 「かぁー!もーう!お前冷めすぎ!そういう偶然を運命って言うんだろ!全くお前は~、もっとこう、なんというか~・・・。」

 そこに朝倉が戻ってきた。進二は朝倉を見て立ち上がった。

 「よっ!朝倉!俺、藤村って言うんだ!勇治とは中学からの親友なんだ。よろしくな!」
 「あ、朝倉です。よろしくね。」
 「それじゃあ俺は退散しますかね!またな!勇治!」
 進二はニヤつきながら教室を出て行った。

 まったく・・・。あいつは何がしたいんだ・・・。

 「なんか、忙しい人だね。」
 「ああいう奴なんだ・・・、昔から。」
 俺は化学の教科書に視線を落とした。