藤村君が教壇に立った。相田君は席に着いた。
 クラスは藤村君の発する第一声を聞き逃さないように、静まり返っていた・・・。

 「・・・・勇治には中学の時、付き合っていた彼女がいたんだ・・・・。」
 藤村君は話を始めた・・・。

 彼は勇治君にまつわる過去の出来事の全てを語った・・・。
 沢木遥さんという彼女の存在、市内の歩行者天国での通り魔事件、勇治君の目の前で沢木さんを殺した犯人、そして島谷君を殴ったときの勇治君の表情・・・・。

 クラスは物音ひとつ立てることなく藤村君の話に聞き入っていた・・・。
 みんなが勇治君の心境を、わが身のことのように受け止めていた・・・。

 「・・・あいつは・・・、あの時のトラウマに今もなお苦しんでるんだ・・・・。」
 藤村君はそう言って一連の話を締めくくった。

 「俺から話せるのはこんなもんだな・・・・。」
 クラスからはまだ物音ひとつ聞こえなかった・・・。

 ・・・・・・・・・。

 その時だった・・・。

 ガタッっと椅子の動く音がした・・・。

 見ると、根岸君が目に涙をうっすら浮かべて立っていた。根岸君は藤村君を真剣な顔で見つめていた・・・。
 クラスのみんなが根岸君に注目した時、彼は藤村君に頭を下げた。

 「ごめん・・・。何も知らないで・・・、真田のこと信じてやれなくて・・・・。本当にごめん!!」

 それを見てクラス全体が立ち上がって藤村君に頭を下げた・・・。
 「ごめん・・・。」
 「ごめんなさい・・・・。」
 「ごめんな・・・・。」

 みんなが藤村君に謝っていた・・・。
 私は座ったまま、その異様な光景に目を丸くしていた・・・。