明美は黙っていた・・・。俺も何も話さなかった・・・。

 「それじゃあ、俺こっちだから、また明日。」
 俺が交差点を左に曲がろうとした時・・・。

 「ゆ、勇治君!」
 明美の叫び声が聞こえたから、自転車を止めて振り返った。

 「勇治君・・・。」
 「ん?どうした?」
 「あの・・、あ、あの子のこと・・・、どう思う?」
 「あの子?朝倉のこと?」
 明美は黙って頷いた。

 「どうって言われても・・・。まだ数回しか話したことないから、なんとも・・・。」
 「そうじゃなくて・・・・。」
 「ん?」
 「あの子・・・。あの子、遥そっくりだったじゃない!!」

 ・・・・・!!

 その言葉を聞いてドキッとした。心臓が熱くなってきた。
 俺が黙っていると、明美は話を続けた。

 「他人の空似とかそんな次元じゃないよね!?あの子・・・遥・・・だった・・・・。勇治君は何も思わなかったの!?あの子を見て何も感じなかったの!?」

 心臓がドキドキしてきた・・・。

 俺は朝倉を始めてみたときから、朝倉のことばかり考えている・・・。

 だけど・・・それは、朝倉が気になるからではなく・・・、朝倉の向こう側に遥を重ねて見てしまっているから・・・だと思う・・・。

 「俺は・・・。」
 やっと搾り出した俺の言葉を聞いて、明美ははっとしたように、ばつが悪そうな顔をした。

 「あっ、ご、ごめん・・・。こんなこと言うつもりじゃなかったの・・・。」
 「・・・・・。」
 「ごめんね・・・。本当にごめん・・・。また明日ね・・・。」
 明美はそういうと逃げるように去っていった。

 ・・・遥・・・。・・・朝倉・・・。

 ・・・俺は・・・・。

 空を見上げた。夕日が赤く輝いていた。俺の人生は未だ無色だ・・・。

 また朝倉の顔が浮かんできた・・・。
 はっとして頭を振り、必死にペダルをこいで家に帰った。