藤村君は体育館と校舎の間の通路で、1人壁に向かって静かに泣いていた。

 「藤村君・・・・。」
 「っくっそぅ・・・・。俺は結局・・・、あいつに・・・・何もしてやれなかった・・・。あいつの苦しみを・・・・、少しも・・・・和らげてやれなかった・・・・。」
 「そんなことないよ。藤村君がいてくれたからこそ、勇治君は少しずつ変わっていったんだよ。」

 「・・・・・・。朝倉・・・、ごめんな・・・・。」
 「えっ・・・?」
 「朝倉がせっかく・・・、あいつの笑顔を取り戻してくれたのに・・・・。」
 「そ、そんな・・・、私だけの力じゃないよ。藤村君も新田さんも勇治君のこと、本当に大切に思っていたからだよ。元気出してよ、藤村君・・・。」

 「・・・俺は・・・、ほんっと・・・無力だな・・・・・。」
 「藤村君・・・・・。」

 しばらく1人にしてほしいという藤村君を残して、私は廊下を歩いていた。

 ・・・・私だって・・・無力なんだよ・・・・。

 勇治君のあの時の顔が頭をよぎった・・・。
 彼の心の傷の深さを象徴するようなあの表情・・・・。
 今の私に・・・・、何ができるんだろう・・・・。
 私は・・・・、彼の心の傷を・・・癒してあげられるのかな・・・・。

 考え事をしながら廊下を歩いているとチャイムが鳴った。

 ・・・・・・・・。

 そうだよね・・・・・。
 今自分にできることを・・・、していくしかないよね・・・・。

 落ち込む自分の気持ちを励ますように、表情を引き締めた。

 やれることをやろう・・・!私なりのやり方で!

 教室まで走って戻った。