勇治君は10日間の謹慎処分となった・・・。

 このことは、あの場に居合わせた私たちの誰一人として口にすることがなかったのに、噂となってクラス全体、さらには学年にまで広がってしまっていた・・・。

 廊下を歩いていると、今日もそんな噂話が聞こえてきた・・・。
 「なぁなぁ、知ってるか?6組の真田って、あの島谷をボッコボコにしたらしいぞ。」
 「あぁ~、やっぱそれって本当だったんだ。こえ~よなぁ~。」
 「だよなぁ~。頭のいい奴ほど何するか分かんねえって本当だなぁ。」
 「真田はキレるとヤバいって事だなぁ。気をつけようぜ~。」

 そんな話を耳にするたびに胸が苦しくなる・・・。
 勇治君がどれだけ苦しんでいるかも知らないくせに・・・。
 身勝手な噂にここまで腹が立ったのは初めてだった・・・。

 6組の教室が近づいてきた時だった・・・。
 「お前ら!いい加減にしろ!!」
 教室の中から大きな叫び声が聞こえてきた・・・。
 教室に入ってみると、藤村君が立ち上がってクラス全体を睨むように見渡していた・・・。

 「お前ら・・・、本当に勇治がそんな奴だと思ってんのかよ・・・・。本当にあいつが、ただ怒りに任せて暴力を振るうような奴だと思ってんのかよ!!」
 この言葉だけで状況はなんとなく飲み込めた・・・。

 「お前ら、今まで一体あいつの何を見てきたんだよ・・・。あいつと話したことのない奴がこの中にいるのか!?あいつの笑顔を見たことのない奴が・・・、この中にいるのかよ!!」
 藤村君の声は震えていた・・・。

 「あの笑顔を見てきたお前らまでが・・・、そんな事を言うのかよ・・・・。」
 藤村君はうつむいた。クラスは静まり返っていた・・・。

 「あいつは苦しんでんだよ・・・・。お前らが想像できないくらいの・・・・、とてつもない心の傷を負ってんだよ!」

 ・・・・・・・・・。

 「なのに、それを分かってやろうともしないで・・・、好き勝手に面白おかしくそんな話しやがって・・・。俺は許さねえぞ・・・。絶対に許さねえからな!!!」

 藤村君は教室を飛び出していった。

 私は学級日誌を教壇机に入れて、藤村君を追いかけた。