私と勇治君はいったん教室に戻って帰り支度をした後、校門に向かった。

 勇治君はずっとうつむいたまま、焦点の定まらない瞳でどこかを眺めていた。

 下駄箱を出たところで彼が突然立ち止まった。
 「勇治君・・・?」
 振り返って声をかけた。
 「俺・・・・、あいつを・・・殴ったのか・・・?」
 不安と動揺に包まれた彼の瞳を直視できずにうつむいた。

 「で、でも!仕方なかったんだよ!島谷君がナイフを出してて!それで・・・!」
 なんとか励まそうとしたけど、私もまだ動揺が収まっていなかったこともあって、まともな言葉が思いつかなかった。

 「ははは・・・・。ナイフか・・・。」
 すると、彼は何かに気がついたように、生気なく笑った・・・。

 「え?何?どうしたの?」
 「俺は・・・何も変わっていなかったんだ・・・。」
 「ど、どういうこと・・・勇治君?」
 「ははは・・・。ごめん・・・、1人にしてほしい・・・。」

 彼は肩を落として校門まで歩いていった・・・。
 私は彼の小さくなった背中をただ見ていることしかできなかった・・・。

 夕日に照らされた彼の赤い背中に、心の奥に潜む深い闇が映し出されているようだった・・・。