家を見なくて済んだおかげなのか、涙は出てこなかった。
 空き地になったこの場所には、過去の思い出の欠片は少しも残っていないようだった。

 しばらく黙って空き地を見ていた。
 あまりに何も残っていなかったこの場所の、過去の思い出を少しでも見つけようとしていたのかもしれない・・・。

 「真田君・・・。後悔してるでしょ?」
 「え・・・・?」
 「あの日・・・歩行者天国に行かなければ・・・、こんなことにはならなかったのに・・・って。」

 “歩行者天国”
 その言葉を口にした途端・・・、空っぽだと思っていた思い出の箱から記憶が湧き出てきた・・・。

 「・・・・。」
 「自分があの日あんなことしなければ、あの時こうしていたら、今こんな思いしなくてよかったのに・・・。そう思ってるんじゃない?」
 「・・・その通りだな・・・。」

 言葉を発すれば発するほど・・・、箱の中は思い出でいっぱいになっていった・・・。
 目に涙が浮かんできた・・・。
 両手を握り締めて必死にこらえた。

 ・・・だめ・・・・、泣いちゃう・・・・・。
 必死に涙をこらえる私に追い討ちをかけるように、何もなかったはずの目の前に、私の家の面影が浮かび上がってきた・・・。

 「私もそうだった・・・。私の家はね、お父さんとお母さんがすごく仲良しだったの・・・。お父さんがいなくなって、お母さんすごく悲しんでて・・・、だから私、必死でお母さんを励ましたつもりだったのに・・・。結局・・、お母さんも・・・。」

 ついに涙は表面張力を超えてあふれだした。
 泣かずにいけると思ってたのに・・・・。

 目の前に浮かぶ私の家の中には笑顔で食卓を囲んで食事をとるお父さんとお母さん、そして私の姿があった・・・。